隣のおっさんがくさい

世に対して不平不満を言いつつも何とか楽しもうと試みる弱者のブログです。

【映画ネタバレ考察】Swallow/スワロウ~あのラストは誰がなんと言おうとハッピーエンド~

生きる意味と異食症

 

 

 

 

他の方の言葉を使うとこの作品は『逸脱』によって1人の「人間」が自由を勝ち取った話

 

今回、異食症を取り扱ったスリラーということで真新しさを感じて見てみましたが、正直めちゃめちゃよかったです。

 

その中でも、異食症というのはあくまで一つのきっかけに過ぎず、それよりも人間が生きる上で大切な事に気づかされたというか、結局自分の欲求や取り返せない過去とどう折り合いをつけて生きていくかというところをテーマとして掲げていたので、自分としてはかなり心に刺さりました。

 

【あらすじ】

ブルーカラーの家で生まれ育ったハンターは、大企業の御曹司(リッチー)と結婚し玉の輿に乗った。最初のうちこそ、ハンターはハドソン川沿いの豪邸での優雅な暮らしを楽しんでいたが、夫から対等な個人として扱われることはなかった。抑圧の中で生きていたハンターだったが、ある日、ビー玉を食べたいという衝動に駆られ、勢い任せに呑み込んでしまった。呑み込んだ瞬間、ハンターは今までにないほどの充実感を味わった。その後、ハンターは画鋲やバッテリーのようなものまで食べるようになり、嚥下後の充実感にますますハマっていくのだった。

 

【考察】

そもそも、なぜ恵まれているようにみえる主人公がこのような事をするに至ったのか、それは至極当然というか、彼女の過去(母親がレイプされてできた子供、生まれながらにして自分が存在していいのか悩んできたこと)を踏まえれば、あくまで好かれているのは表の自分であって、本当の自分を承認してくれる人は誰もいないという心の孤独に追いやられていたことが今回の異食症のきっかけだったように思います。(主人公自身が旦那を心から信用できず、その事実を隠していたこともこのような結果を生んだ一つの要因であるとは思いますが。また、母親からも言葉では承認されているようでも、妹たちとは明らかに違う扱いをされており、真に心が通っているとは言えない関係性のようでした)

 

しかし、自分の作り上げた表の部分を好きになった旦那を突っぱねるほどの心の強さはその時の主人公にはあるはずもなく、何不自由ない暮らしの中でもどこか自分が存在していないような、自分は何のために生きているのかという悩みを抱え淡々とした日々を過ごしていました。(才能もなく、販売員をずっとしていたと自分を卑下して義母にはなす主人公も印象的でした。他にも旦那の同僚がハグを求めてきた時に、一瞬躊躇うもハグぐらいならと相手に承認される(求められる)事を求めてしまうところも主人公の自己肯定感の低さを垣間見ることができます。→その後、それを自分だけではなくいろいろな女性にしているところを見て、再び自己否定することになるんですが)

 

そんな時に、ふとした好奇心で異物を飲み込んだこと、ある種、いままでの自分から『逸脱』をした事(自分の中だけの特別な秘密を保持したこと、だれにも縛られず自分が自由に選択した行為であることをしたこと)で、その瞬間だけは自分が自分でいる感覚を覚え、それが徐々にエスカレートしていきます。異食症についていえば、これはあくまで、そこに物がたまたまあったからといいますか、それはほんのきっかけに過ぎず、それが別のものであった場合も全然考えられたと思います。(髪の毛を抜くと落ち着くという、抜毛症とかでも全然あり得たという話)

 

 

その中で、妊娠中に彼女の奇行がバレてしまいます。そんな中でもまわりは主人公の心配というよりかは、主人公の体の中の子供の心配をしているようで、そこでも主人公は自分の存在がより薄くなるような思いに苛まれるようになりました。男社会ということもあり、どこか男(旦那)のおかげで裕福に暮らせているんだぞっていう雰囲気が言葉の節々からするのもそうですが、主人公も主人公でなに不自由ない生活をしているようで、女性はこうあるべきという思想を強制されているというか、周りに劣等感を持ち、精神的にはだいぶ抑圧された生活を強いられていました。(旦那の前では、スマホゲームしている姿も見せず、良い妻であろうと取り繕っているシーンなど。ネクタイを誤ってアイロンにかけてしまった時も、主人公の強ばった表情から圧倒的な力関係の差を窺うことができます←人間だったら間違いもあるのは当たり前という一種の開き直りすらも自分の中で出来ないのは、見るからに歪な夫婦関係のようにも思えます)

 

その後、自身の過去の告白、それに伴う裏切りと合わせて主人公の異食症はエスカレートして、施設に入れられそうになるも逃亡。

 

逃亡中、主人公はレイプ犯だった父(血縁者)に会いに行き『私はあなたと同じ?』と自分が果たして生きていい存在なのか涙ながらに問います。そこで父から『私とお前は全然違う、お前は悪くない』という言葉をきき、主人公は、不安定だった自分の存在意義に対して、『私は私だ!だから私の好きなようにやる!』という一つの答えに確信を持ちました。それがラストの子供の中絶につながります。一見なんとも言えないバッドエンドのようにも思えますが、自分からすれば主人公の新たな人生の始まりというか、その先に光を見ました。(女性のあるべき姿みたいなのをここであえて否定しているのも、フィクションだからこそできる表現というか、強烈なメッセージ性を感じました)

 

過去の自分からの『逸脱』、女性として求められる固定観念からの『逸脱』、私は私であるという、他者評価社会からの『逸脱』が感じられるラストというか、今後主人公はいままでの取り繕った自分を脱ぎ捨てて1人の人間として強く生きていけると思える希望的なラストに私は感じました。

端的に言うと、中絶してるけど彼女の人生で見た時にハッピーエンドとも取れる不思議な作品

(中絶をハッピーエンドとか何言ってんの?って思う人もいるかもしれないけど、彼女が選んだ選択が彼女の人生にとってまちがってるかなんて誰にも分からないし、周りがとやかく言えることでもない。でも、彼女自身は過去の空虚な自分と決別してその選択をしたって考えたら、たとえどんな残酷なことだろうとこれからは彼女は下を向かず前を向きながら未来に突き進んでいくんだなって感じがするし、自分にはそれが彼女にとってのハッピーエンド(新たな人生の先)にしか思えなかった。それによって伴った代償がたとえ大きかったとしても)

 

【総評】

自分は自分!というのは簡単なようでとてつもなく難しい。でも、自分らしい人生を生きてく上で、そこを避けては通れないとも思ったので、この映画を見て、また少しだけでも前を向いて頑張ろうと思えました。

 

他にも、周りの目を気にしすぎるのは、人からの承認に依存してしまうってところで自分の人生を生きる上で足枷になってしまうこともあるので、だからこそそういう意味でも自分は自分!って確信が持てるように、小さいことでも成功体験を重ねて自信を持てるように(自己肯定感を高める行為を)していきたいって思いました。というか、していくしかないみたいな、どこか確信的なものを感じます。

 

後、最後のED曲alana yorkeの『anthem』の歌詞がめっちゃよかったです。今も鬼リピしながらこのレビューを書いてます。

 

私の拙い文章を最後まで、読んでいただきありがとうございました。